2005年10月17日

上海起業家登龍門報告

 上海起業家登龍門、会場は、上海でも最近開発された、入口にスターバックスがあるようなおしゃれな新天地という地区にあるARKというライブハウス。前夜祭で60〜70名いたようで、イベント自体は100名を越えていたか? 外は石づくりで中は木で装飾された3階建ての趣のある建物で、オーディエンス席は白いパイプ椅子がぎっしりキツキツに敷き詰められている。
 このイベントは今年のはじめに大阪で開かれたドリームゲートスター誕生の上海版と言えるもので、その感想はドリームゲートのウェブサイトに書いたように素晴らしいもので、簡単に言うと、起業家がビジネスプランをプレゼンして、メンター社長が共感したら資金提供その他を含めた協力をするというマッチングイベントだ。
 司会が下手くそで、メンター社長(が札で「資金提供する」と出すんだが)の意思表示が舞台からも客席からも見にくくて進行がスムーズでないといった欠点は大阪と変わらず解決されていなかったし、大阪と違い、客席の投票といったオーディエンスの参加形態が用意されていなく、全体としての印象としての盛り上がりに欠けた(この感想はイベント終了後にもらしていた人が他にもいた)のは事実だ。もっとも準備側もほとんど一人で死ぬ思いでやったのだろうと想像されるからそこまで求めるのは無理だとも分かってはいるので、だんだんとよくなっていくことを期待している。
 大阪ではまだこれから本格起業とか実際にはアイディアだけで実行はしていないという人も多くプレゼンしたのだが、今回のプレゼンした6組は、もうかなり上海で事業を展開していて、もうそれ成功事例の報告じゃん、といったものまであったほどで、かなり質が違う。「この業界で世界トップを目指すために」、「日本文化を根付かせるんだ」、「農業システムを全面改革」、といった大きな話へ向けてのステップなんである。だからこそおもしろい面もあるし、メンター社長がIT系ばかりだったのでそれとのマッチングという面ではやや難があったのも事実だが、そうしたリアルなビジネスをしている上海とそうではない日本との対比という意味でも興味深かったと言える。以下、プレゼンの紹介と一言コメント。

 プレゼン中、唯一の女性が日本から注文が来る3DCADを上海で短納期で安く日本品質出している会社の社長(なおメンター社長は全員男)。日本だと納期は長くなって3倍の値段がする注文も、他にはない高品質で納品するので営業をしないでも繁盛しているというが、経営戦略をきっちりしきっていく人間がいないのでそのあたりの協力を、という話。プレゼンした社長はオーストラリアでデザインの学位をとってノベルティのデザインなどをした後、上海に来て、現在は新築マンションの3Dバーチャル映像などをつくる仕事を受けており、もう一人のパートナーは中国人の女性で日系企業での実績もある人だ。まだこれだけの品質の仕事をする会社は上海になく、日本の大手からも仕事がどんどん来ているので、ライバルがいないうちにこの業種で世界一になっておきたいが、そうしたことを進めていく人材がいないのだ。英語・中国語・日本語が対応できるので、ほぼ全世界の仕事をとってこられるのにもったいないという話。中国人とパートナーを組んでいることと海外経験を経てあえてこの地でトップを目指す、なんとも上海らしい成功していく一典型だなあという印象。

 よくある例に商社で上海勤務をしていてこの地の魅力にとりつかれて会社をやめてこちらで起業する例があるが、その一例なのが、外食FC業態開発の会社をつくりたいというプレゼン。すでに焼肉レストランなどをいくつかFCで展開している。FCなのでそれほど資金はいらず、業態を売っていくということで、商社時代も外食産業で飲食については自信があり、FC潜在顧客リストも1000件はあるという。ファミレス、寿司、焼肉などもろもろいろんな業態を全て網羅するFC業態開発ができるようにして、それを中国で大きく展開し、そのブランドが日本に逆輸入されるようにまでなりたいとのもくろみもある。日本ではすでに外食産業は先人が培ってきたものが多く、なかなか今から食い込めないが、上海ではまだまだ洗練の余地が多くあり日本品質でやれば群を抜ける。そこで一気にいきたいが、まずは成功している繁盛店を直営で1店舗持っていて「これを見ろ」というのがないとFCで売っていくには説得力不足なんで、その1店舗2〜3千万円が欲しいという要求。よく聞くタイプの上海でのしあがってやるタイプだなあと思って聞いた。

 中国と言えばヒト・モノが圧倒的に安いからそれを利用して日本向けビジネスをするのが基本だが、ここでは飲食の店の内装や設備一式を全て上海で一貫生産して上海から日本の最寄の港まで運んで一番高い日本国内の陸送を最小限にして圧倒的に安いコストで飲食業を開業できるという売り込みでやっている会社がプレゼン。すでにヤマト運輸の上海倉庫の3分の1を使ってるというからすごいではないか。とにかく在庫も上海に置くから日本でやっているのとでは比較にならないほど安い。最初に開業する時には銀行借入にも限度があるが、これだけスタートアップのコストを下げられれば、かなりいける人が出てくるということで、チェーンであれば同じ仕様をたくさんつくればよりスケールメリットもうまれてさらに安くなる。それも設備といっても皿やカップ類なども含めて全てトータルパッケージでそろえるというのが売りで、好評だという。だが、いかんせん日本に拠点をもって営業していないので、その部分を何とかしたいとの要望。日本に拠点をもって営業をするとせっかくの低コストでの提供という最大のメリットが死んでしまうのでそこを何とかという話で、ウェブマーケティングなどの会社が手伝おうかといったマッチングの方向へ。ただ、あまりにももう完成されているビジネスなんで何を手伝えばいいのか、といった声をメンターからはあがっていた。こんな商売が上海(中国)にはごまんとあるんだろうねえ。
 
 今やオフショア開発でITシステム開発もどんどん中国にいっているわけだが、IT人材、特に中位レベル以上の人材不足は世界的にも深刻で、例えば中国でやる場合、日本語と中国語とそれらの文化やコミュニケーション術の差異にまで気を配って仕事のやりとりができるブリッジSEに至っては非常に足りず、ほとんど人材募集をしても見つけられない状態だ。そこでそうした人材を育成し、派遣していくビジネスをしたいとのプレゼン。ウェブ上にポータルをつくってマッチングシステムをつくることしか現状ではできないが、資金提供していただければきっちり人材を確保する拠点をつくって派遣業を展開できるとのこと。日本では人材派遣はもう細分化されて特化されたものがたくさんあるが、上海ではまだまだそこまでないので、チャンスがあるのだという。インドなんかだと英語もできるし違う面もあるんだろうけど、まあとにかくコンピュータ関連がみんな今は中国だからねえ、こういうブリッジSE人材をいかに確保できるかがキーの1つなんですね、勉強になりましたわ。

 プレゼンした中では一番年齢が高い人だろうか。農業ビジネスのプレゼンがあった。農業をやっていて品種改良技術なども手がけてきた人で、空港がある浦東地域の農業地域に農業技術指導員として中国政府から招聘されてきたのが上海に来たきっかけだという。中国では巨大な農地が整備されていて設備も国営だからばっちり整っているが、国営の経営でうまくいかなくなって放置されているところもたくさんある。そういうところをどんどん提供してもらって、付加価値の高い日本の農業技術を導入していこうというのが基本の考え。2007年問題で団塊の世代が次の世代へ農業を譲る時期に、シニアで世界に誇る農業技術をもっている日本の農民を中国に連れてきて、土づくりも何も技術がない中国で技術指導をし、貧困にあえぐ中国農民もそれで生産を増強して豊かになるというどっちもよころぶモデルである。日本の農協は共同出荷から金融まで何でもやって弊害がすごくあったが、一方で農業技術の普及という意味ではかなり役立った。中国にはないので、中国における農協のようなもの、それも農業技術のシェアリングという部分を担うものをやっていきたいということだ。そのために、日本からシニア農民をリクルーティングする部分などを支援して欲しいとのこと。中国の退役軍人が主なメンバーになっている100%国出資の会社でやるので、いい技術さえ持ってこれれば自己資金などいらずにどんどんできてしまう。そのへんが社会主義国家のすごいところだ。このビジネスプランは私には一番衝撃的だった。また、例えばヨーロッパのバラはほとんどヨーロッパでは生産されておらず、ケニアで生産されているのだが、それを赤道直下で年間の気温が一定しているところだと大きくて丈夫な花が1年中出荷できるからで、サントリーが遺伝子組み換えでつくったブルーカーネーションも南アメリカでつくっているが、これを中国でもつくろうということで中国への安全性の申請書類の作成などもして、やっていくとのことだ。雲南省で大球場1つ分くらいの土地が確保できているので、いちごやカーネーションやバラを栽培していく予定だという。例えばコージーコーナーというケーキ屋があるが、ケーキは全て中国の山東省でつくられていて、冷凍で日本に来ている。しかし中国は夏いちごがないので、いちご不足なんだそうだ。そこでそういうところに供給する意味でも単価が高いいちごはターゲットしていいという。日本でもバブル時にはケーキ売り上げがすごくあがったそうだが、中国でもまだケーキはまずいのしかないので、おいしいケーキなら高くてもどんどん売れるだろうとのこと、といろいろ脱線してくるが、プレゼン後に好きな起業家のところにいって話を聞ける分科会で彼のところに行ったのでまたその報告は後ほどに。とにかく農業は基本だし、大きなビジネス。これは日本では聞けないレベルの話である。
 
 最後のプレゼンは最も多くの人に強い印象を与えたスキンヘッドの32歳のマグロ漁師の息子で、上海でマグロ、それも中トロ・大トロだけの店をやっている。昼間は高級ホテルの日本食レストランなどへ卸し、夜はレストラン「天家」。もちろん中国で生の魚を食べるということはなく、なかなか売れず、マグロがこれだけ好きというのは日本独特なものなんだが、中国のモノ・ヒトが安いのを使ってなんかしようというのはもう時代遅れで、「日本のマグロ文化を中国に浸透させる」との中国人に日本文化を受け入れてもらうという意気込みでやるのがこれからだ、というのはすごく強いメッセージだった。世界のマグロの9割は一度築地に来て、そこからまた世界に出荷されるのだが、彼はもちろん築地からも入れているが、オーストラリアから直接入れるようなこともして、これなど業界的にはかなり画期的なことなんだそうだ。メンター社長で行ったことある人がとにかくおいしいと太鼓判。他のメンター社長もうちはIT系だから会社として支援は決裁できないが、個人的に行って応援という札ばかり。う〜ん、こういう人がいるから上海はおもしろい。

 プレゼン終了後はそれぞれ興味のある起業家のところにメンターやオーディエンスが集まって分科会だが、なんかきっちりしタしきりがなく、ばらばらでイベント的には「らしい」ものにはなっていなかったが、すぐに実利的に次の話にすすむようなつながりをつくれる場であったことは事実なんだろう。分科会後の懇親会では起業家でも参加者と話すこともなく食事してる風景もあった。長時間のわりには気抜けした感じもあるイベントだったが、それだけ皆完成度も高く、来ている人たちも目的意識がある程度定まった人も多かったし、何といってもこのようなイベントでビジネスを披露して交流できる場をつくったということ自体に価値があり、一応成功したと言えるであろう。

 懇親会で何人かとしゃべていたが、上海でこれからビジネスしたい日本からの留学生などもいたが、上海で1年やってきたよしださんらが出資している会社社長とかもいるわけだし、その他にも今日集まっている人たちがどういう人たちで、どう結び付けたらいいかなんてマッチング役をする人がいなくて、せっかく同じ場に集まっていたのに出会うチャンスをみすみすなくしている例もあったんではないかと思う。とりあえずできる範囲で引き合わせはしたが、本当は参加者リストくらいつくっておいた方がよかったですよね。プレゼン一覧の紙一つ配布されなかったわけだし。ま、そんなでひとまずの報告はここまで。

 以下、上海で感じたことの感想。誰かのプレゼンにもデータとして出ていたが、2010年には中国経済が日本を追い越すだろう。アジアの中心は中国になり、日本は没落していくのみかもしれない。公害がこれから深刻になるだろうと思ったが、半年や1年で一気に自転車が電気スクーターに変わることに象徴されるように、より進んだ技術が先に入ることによって公害を撒き散らす技術を飛び越すことができる可能性も高い。リニアモーターカーの商業運転もずっと先にやっているし、自動車もどんどん新しいものになっていて、自動車もほとんどがフォルクスワーゲンだったりバスならボルボだったりするし、リニアモーターカーもドイツの技術。そういうものをどんどん入れてすぐに使ってしまうのだから、余計な遺物がないだけ日本よりずっといかもしれない。日本は軍国主義で富国強兵をし、敗戦後はアメリカの軍事的傘のもと成長していったわけだが、中国は社会主義がいまだにきっちりしているから、いざ規制をするとなれば徹底してするから、それこそ偽物ブランド商売が激減したことに象徴されるようにやる気になればすぐ対応できるわけだ。
 一方で、日本人のように過労死するほど働きすぎて、挙句に幸せも感じられないという社畜になってしまうのと比較して、中国人は監視していないとすぐさぼる。だから品質管理は徹底しないと恐いとよく言われる所以だが、これは裏を返せば、庶民の生きる知恵が賢いということなのだ。社会主義政権下で朝令暮改で勝手な政策を強権的にやられるかわりに、それをうまくやり過ごすスマートな生き方がきちんと身ついている。制度や社会に使われるだけ使われてぼろぼろになるようなやわな人間ではないのだ。
 農業ビジネスの分科会でいろいろ聞いたのだが、中国産の野菜は農薬がたくさんで危険などという言われ方がされる場合もあるが、実際にはほとんどの中国農民は貧乏だから農薬を買えず、無農薬ばかりなのである。また、大規模農場で管理もコンピュータ化されているから、今後重要になるトレーサビリティーも日本よりずっと進んでいて完璧なトレーサビリティがすぐ可能になるのだ。農業は地産地消が一番いいが、都市への供給を考えた時に、将来を見越して準備をしている。雲南省はチベットと国境を接する秘境のようなところだが、ここでの農業には力を入れていて、雲南省からの農産物の輸送には補助金が出てすごく安いんである。2010年を越せば中国は農産物の輸出国から輸入国になるだろうとの予測もあり、きっちりと生産性の向上のために投資をしている。食糧安全保障も視野に入れた社会計画が遂行されているわけだ(日本とは違って)。
 上海市で1300万、周辺部もあわせれば1億3千万もいるという規模だから、動けばすごいものになるし、だいたい中国は何千年も先進国であって日本との戦争中だけ後進国だっただけで、歴史の流れからすれば日本がリードしたのなど一瞬のこと。それにしても本当に日本の繁栄は短かったと言えよう。自動車生産でアメリカを抜いたとか喜んでからバブル崩壊まで。ほんの2〜30年だろうか。
 中国の経済成長はすごすぎて、2008年北京オリンピック、2010年上海万博を過ぎると揺り戻しが来るんじゃないかとの声も少しはあるが、今がバブル的かもしれないとしても、日本ようなバブルにはなりえない。土地は国有だし、投機的な金融で儲けるということが構造上ないわけだから。土地の含み益だけで異常に盛り上がってドスンということはないわけだ。あくまでも実経済が動いていると言える。
 ほんと、日本ももう人口減ってくし、余計な行政コストも削減して、ゆっくりそのへん耕してサブシステンス経済にしてこうよ。それしかもう選択肢ないと思うよ。アメリカは世界で政治的にも孤立してるし経済もボロボロだし、その傘のもとにいることをわれわれは民主的な制度のもとで合意してきたわけで、それはもう引き返せないとこまで来てるわけだし、日本のアジア内における価値なんてほとんどなくなってきてるんだからさ。
 農業ビジネスの人は屋上緑化なんかもやっているわけだけど、ドイツなど都市計画の中に屋上緑化を組み込んでいるからそれに耐えられる丈夫な建築物が前提とされ、屋上に10〜15センチもの土を入れていろいろ植えるわけだ。日本では技術革新でどれだけ土を薄くするかということしかやってないが、ドイツだと集中豪雨でも屋根の土が吸収する分で急激に流量が増えることを避けるダムの役割だってするんだという。そうした都市計画をすれば、無駄ですぐ使えなくなるダムをつくるよりずっと効果的で、都市も豊かになるのにそういう計画は立てられない。それが日本の現状なんである。
 上海からは飛行機2時間で大阪に着く。そしたらまた日本の現実を生きねばならない。というわけでまた私は地域に戻って地道に続けていくのである。


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1. Posted by いのっち    2005年10月17日 22:54
平戸さん
いのっちです。

的確なコメントありがとうございます。

ご想像の通り、ほぼ1週間、
毎日仮眠1時間程度で過ごし、
「人間というのは、こんなに体力が
あるのだな」と自分の体力に自分でも
びっくりした次第です。

死ぬ思いなんて
レベルじゃなかったです(笑)。

イベントの日は三半規管が
おかしかったようで、
ずっと地面が揺れてました。

ご指摘の点は

「おっしゃる通り!」

っていう部分と

「そういう風に感じられてしまうのか!」、

という部分とがあり、謙虚に
全てのご指摘を受けて今後に生かしたい
(全てを守ることは難しいでしょうけど)と思います。

ほんと、上海までお越し頂きありがとうございました。

心より御礼申し上げます。

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